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2023 年 2月 02 日

AI自動翻訳と、文書タイプの向き・不向き

AI自動翻訳と、文書タイプの向き・不向き

近年、AI自動翻訳の性能が飛躍的に向上したことにより、人間の翻訳者の仕事はAIに取って代わられるのではないかと言われることもあります。

しかし同時に、「文学作品はAIには訳せない」、「ゲームが機械翻訳のような言葉で訳されているため、まるで使い物にならない」というような声も耳にします。日々進化しているAI自動翻訳でも、文学作品やゲームがうまく訳せないのは一体なぜなのでしょうか。また、どのような文章ならAI自動翻訳がうまく機能するのでしょうか。

本記事では、AI自動翻訳と相性が合う、または合わないタイプの文章について、3つの観点から考えていきます。

3つのテクストタイプ

翻訳学の分野で、Reiss(2000 [1971])が提唱した「テクストタイプ」という考え方があります。文書はその性質から3つの「タイプ」に分けられるという考え方です。具体的には、情報型(Informative)、効力型(Operative)、表現型(Expressive)の3つのテクストタイプが提唱されています。この概念は以下のように図示されています。それぞれが果たす機能について、図を基に説明していきます。

Reiss(2000 [1971])のテクストタイプ
Reissのテクストタイプとテクストの種類(Chesterman 1989: 105, Roland Freihoffの配布資料に依拠、翻訳は『翻訳学入門』より引用)

1. 情報型テクスト

情報型テクストは、その名の通り、情報を伝えるためのテクストです。上図、三角形の情報型の角には参考資料や操作説明書などが位置づけられていますね。論文やレポートなどもこのタイプの文書となります。

2. 効力型テクスト

効力型テクストは、読み手の行動を促すためのテクストで、例としては広告や選挙演説が挙げられます。広告は何かを買ってもらうため、選挙は投票してもらうために紡ぐ言葉なので、その効力を期待するテキストといえます。

選挙投票

3. 表現型テクスト

表現型テクストは文章自体の美しさが大事にされるタイプのテクストです。詩や小説、劇では情報を伝えることや、それを受け取った人が行動を起こしたくなるかどうかよりも、言葉自体の美しさが重視されますよね。

AI自動翻訳と各テクストタイプの相性を考える

日々AI自動翻訳に触れている方ならなんとなく、3つのタイプの中だと「情報型」テクストと相性が良さそうだと予想できるのではないでしょうか?

「翻訳エンジンは言葉の意味を理解しているわけではない」ということはしばしば耳にします。正確には、人間の脳とまったく同じようには理解していないといえます。翻訳エンジンは言葉を数値情報化し、数字を計算して結果を出力しているのです(詳しく知りたい方は、「NMT 仕組み」などで検索してみてください)。それに対し人間の翻訳者は言葉のみでなく、今世界が置かれている状況や自分が経験してきたこと、原文の著者の考えなど、多岐にわたる要素をすべてひっくるめて考え、その上で最適だと思われる訳文を紡ぎ出します。

人間とは異なるプロセスで原文を解釈して訳文を生み出す「機械」が、読み手の行動を促せる表現を模索したり、美しい日本語を考えたりというのは総じて難しいといえるでしょう。Reiss(2000 [1971])のテクストタイプに基づいて考えると、表現型や効力型に分類されるテクストは、特に人間的思考プロセスが必要になるテクストだと言うこともできるかもしれません。

 

機械翻訳と人手翻訳

 

一方で、情報型テクストに分類される参考資料や報告書などでは、ある程度決まった表現や文法が繰り返し使われます。したがって、機械が学習しやすく、他2タイプのテクストに比べてある程度の品質が保証できると予想されます。

※しかし先にも書いたように、情報型テクストの翻訳における最重要事項は、原文の意味が訳文に正確に(抜け漏れや追加なく)反映されていることです。特に社外向け文書や法律関係の文書など、誤訳が大きな問題を引き起こすリスクがある文書については、人の目で最終確認をすることが必須となります。

まとめ:文書の性質を参考に翻訳タスクのプロセスを考える

以上、Reiss(2000 [1971])が提唱したテクストタイプを基に、AI自動翻訳との相性を考えてみました。翻訳タスクが発生した際、AI自動翻訳を使うべきなのかどうか、なんとなくの感覚や経験則から決定されている方もいらっしゃるのではないかと思います。

プロの翻訳者(人間)にいちから翻訳を依頼すべきタスクなのか、AI自動翻訳である程度良い品質の翻訳が期待できそうなのかを判断する際にぜひこのテクストタイプを参考にしてみてください。今回このコラムを読んでくださった皆さまが、プロセスを決定するための時間を少しでも節約できていれば幸いです。

 


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参考文献: