2015 年 6月 04 日
【コラム】外国のユーモアを翻訳することはできるのか?
みなさん、こんにちは。八楽の森谷です。
本日のテーマは「ユーモアの翻訳」です。
「笑い」の翻訳は、数ある翻訳の中でも最も難しいものの一つと言えるでしょう。
言語学者の書いた記事ですので、テーマのわりに重厚な内容となっています。
読み応えがありますので、お時間ありますときにどうぞ。
外国のユーモアを翻訳することはできるのか?
著者:Lira Tychinina
ある文化においては広告で強烈なユーモアが使われることがありますが、そのようなことが滅多にない文化もあります。
一般に、ユーモアを翻訳することはできないと信じられてきました。
その理由は何でしょうか。
ユーモアはしきたりやルールを乗り越えるのに役立ち、基本として単なる嘲りは禁止です。
この場合、特定の文化のしきたりやルールに焦点が当てられているため、ユーモアはその文化の当事者にしか理解ができません。
例えばゴーゴリの戯曲「検察官」で、使用人がベッドの上に寝ている場面がそうです。ゴーゴリの時代 (1836) には、これはとてもおかしく見えたのです。
なぜなら使用人というのは床に寝るもので、ベッドに寝るのは主人だけだったからです。
このようなユーモアはロシアでは分かりやすいものです。ロシア文化は現在も世界で最もミステリアスな文化の一つと見なされています。
文化はユーモアに影響を及ぼします。
例えばパロディは、権力格差が低い文化に最も多く見られ、政府の声を遮断します。
英国のユーモアは、そのほとんどが反権力主義に基づきます。
リスク回避志向が弱いとする社会では、より控えめな発言や、弱い形のユーモアとパロディが実践されています。
一方強いリスク回避志向の傾向を持つ文化では、より露骨でぶしつけなユーモアが特徴です。
警告的なドイツのユーモアは彼らの完璧主義と関係しており、皮肉が好まれないのもそれが理由です。
ベルギー人のユーモアは、より率直です。おそらく社会における大きな権力格差の結果でしょう。
ユーモアの代表的特徴は、バカらしさ、可不可の対比、正常異常の対比です。 驚きの要素はユーモアの重要な成分の一つです。人々を笑わせ、あなたをリラックスさせてくれるのは、事態の思わぬ展開であることがしばしばあります。
広告におけるユーモア使用の国ごとの違いは、経営管理に対する文化的価値観によるもので、ユーモア広告を見る者のユーモアのセンスを反映するものではありません。
広告におけるユーモアは、権力格差が低く、リスク回避志向のレベルが低~中度の社会に一番よく見られます。イギリス、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、オランダなどの国です。
調査により、広告におけるユーモア―しゃれ、緩叙法、ジョーク、不条理、おどけ、喜劇、道化芝居、パロディ、皮肉、ブラックユーモア―の移し替えには、さまざまな方法があることが分かりました。
ドイツ人にはユーモアが欠如しているという一般的なステレオタイプがありますが、調査によってドイツでも同じタイプのユーモアが使われていることが確認されています。
ただ、異なる点が1つあります。
イギリスやアメリカでは修辞技法の1つとして「緩叙法」とされているものは、ドイツのユーモアの翻訳研究では「シャーデンフロイデ」を指しているのですが、この技法はアングロサクソン系のユーモアには存在しません。
ドイツの広告にはイギリスと比べてユーモアがそれほど使われないという事実は、ドイツ人にユーモアの感覚がないことを意味するわけではありません。
それが示しているのは、ドイツの広告業界のリスク回避の傾向、そしてドイツの広告が説得力により重点をおいているという事実です。
研究者は米国とイギリスのユーモアの6つのカテゴリーを指摘しました。
しゃれ、緩叙法、ジョーク、不条理、風刺、そして皮肉です。
米国の広告では不条理がよく使用されます。イギリスでは風刺です。この現象はリスク回避志向の程度の差によって説明がつきます。
また別の分析では、韓国、ドイツ、タイ、米国のユーモラスなテレビコマーシャルの内容に一つの共通特徴があることが分かりました。
それは「矛盾」です。4つの国で放送されているすべてのコマーシャルのおよそ60%が矛盾の対比に基づいていましたが、それにはいくつかの文化的な差異が特徴として見られました。
調査の目的は、オランダとフランドル (ベルギー) のユーモラスなテレビコマーシャルの類似性を比較することでした。
この2つの地域では同じ言語が使われているため、多くの広告主が両地域の対象者の文化的特徴は同じであると示唆しています。
ですが実際のところ、フランドルとワロン (ベルギーのフランス語圏) の文化には、オランダ文化よりフランス文化との共通点のほうがよほど多いのです。オランダとフランドルの文化的差異は、オランダとワロンのそれほどはっきりしたものではありませんが、重要です。
オランダは権力格差とリスク回避志向と男らしさの程度の低さが特徴です。
一方ベルギーでは、これら3つの指標はすべて高いです。
テレビコマーシャルの好みについて、2つの文化の当事者である若者を詳細にテストする中で、はっきりとした違いが明らかになりました。調査のために次のようなユーモアのタイプが選ばれました。
a) ジョークや道化芝居といった単純で明確なユーモア
b) 駄じゃれを含む言語的なユーモア
c) 皮肉、風刺、パロディ、不条理、緩叙法といった、洗練されたユーモア
世論調査では、明確なジョークはオランダよりもベルギーでより好まれることがわかっています。
この結果はリスク回避志向の強さによって説明されます。
フランドル人に比べオランダ人は言語的なユーモアを好みます。特に、逸話としてこの手のユーモアを使う場合は慎重になる必要があります。
特定の文脈に基づくタイプのユーモアなので、文化的な現実に影響を与える場合があるからです。<
br /> 道化芝居はオランダ人よりもベルギー人の方がよく使います。不条理、パロディ、風刺により価値をおくのはフランドル地域よりもオランダの方です。
いかがでしたでしょうか。
結局のところ、ユーモアは文化と密接に関係しているため、意味を伝えた上でそれぞれの地域の好みに合う笑いを提供するのは難しいみたいですね。
たしかに漫才のような2人の掛け合いは、日本では主流ですが海外ではあまり見られませんし、そこにも何か文化的な理由が隠されているのかもしれません。よくわかりませんが。