Yarakuzen
Yarakuzen

2023 年 5月 19 日

【ChatGPTの現在と未来】翻訳業務は今後どうなる?

ChatGPTについての見解を、立教大学教授であり機械翻訳の応用研究の第一人者である山田優教授に伺いました。

 

山田 優

東京都出身。立教大学 異文化コミュニケーション学部/研究科教授。機械翻訳と人間のインターアクションが研究の関心の1つ。フォードモーター社内通訳者、産業翻訳者を経て、株式会社 翻訳ラボを設立。八楽株式会社 チーフ・エバンジェリスト兼任

 


八楽:まずはじめにChatGPTの実力をどう思いますか。

山田優教授:第一印象は「凄い!」という一言でした。これまでの機械翻訳が陳腐に思えてしまう一面もあるくらいの実力だと感じています。

 

八楽:具体的にどこが、すごいのですか。

山田優教授:まず翻訳以外もできること。色々な質問に答えてくれるし、プログラミングもできるし、それに加えて、翻訳もできるのがすごいですね。

たとえるなら、これまでの機械翻訳は外国語オタクのような人みたいな感じでしたが、ChatGPTは外国語もわかる知の巨人みたいな感じですね。


八楽:山田先生はChatGPTをどんな形で、どんな質問や内容で使っているんですか。

山田優教授:一番よく使うのは英文校正です(笑)。ChatGPTは拙い英語を書き換えてくれますので。文法的に正しくしてくれるだけではなく、情報を加えて指示を出すと、流暢でエレガントな英文にしてくれます。



八楽:英文校正に使えるツールってGrammarlyとか、他にも色々あったと思います。それらを使わずChatGPTを使っているのは何故でしょうか。

山田優教授:これらの校正ツールは、名詞が複数形になっていないなどの文法的なエラー修正にはとても便利です。

 

八楽:Grammarlyは英文校正としてChatGPTに集約されていくと思いますか。


八楽:機械翻訳についてはどうですか。Googleがニューラル機械翻訳でブレイクスルーして、ChatGPTも急速に改善していると言われています。

山田優教授:専用機としての機械翻訳はなくなっちゃうかもしれないですね。ただ、違う例ですが、ポケトークって裏では、Google翻訳などにつながっています。

スマホアプリを使えば同じこともできるのですが、ポケトークは売れていますよね。使い勝手の良さなどの理由があると思います。英文チェッカーツールも同じように使い勝手の良さが理由で今後も併用されていく可能性はありますよね。

八楽:GPTの登場によって、英語学習は今後どのように変わっていくと思いますか。

山田優教授:まず自分でできる学習が増えて、先生がいらなくなる場面が増えると思いますね。やる気のある人は、どんどんと学べる機会が増えます。

これまでの英語の先生も、学習者にとっての伴走者としての役割が多かったわけですが、ChatGPTを学習に活用できるようになれば、これまでのような先生としての必要性は薄まります。英語の先生には、これまでとは異なる価値や役割りが求められるでしょう。

八楽:ChatGPTで残念だと思うポイントはありますか。

山田優教授:そうですね、その前にまず、世間一般でChatGPTを安易に批判することがあるのを批判したいです(笑)。

ChatGPTの情報は信頼できないとか、平気で嘘つくとかいうものです。それはわかりきっていることで、機械翻訳でいえば誤訳があるのと同じで、そこは人間が注意しなきゃいけない点であります。すぐにダメだと結論出すのは早すぎる。これにはリテラシーが重要ですね。

ChatGPTの場合は、どういう指示を出すと間違ったことが出てくることが少なくなるとか、どういう指示をすれば良いものが出てくるのか、大いに試してもらいたい。

要するにGPTを上手く活用できていないのが、残念だといえます。

八楽:機械翻訳は使えないのではなく、使い方を知らないのと同じということです。山田先生の視点から、ChatGPTはどう進化していって欲しいですか。

山田優教授:まだポテンシャルを確認しきれていない状態ですので、今後どうなるかとか、どうなって欲しいのかはわからないです。

ただ、短期的には、ChatGPTを使い倒す人が出てきて、特定の目的にあった使い方を促すプロンプトがたくさん共有されるようになります。このプロンプトを入れてから翻訳すると、すごく良い訳が出てくるよ、みたいな。そういう状況になってから、ChatGPTの課題や期待する進化の方向性が見えてくるのではないでしょうか。

今はまだ、模索状態です。

八楽:Google検索が出た当時も皆さん、色々工夫して検索しましたね。Googleが悪いのではなくて、使い方が悪いという話を当時していたことを思い出しました。

山田優教授:ChatGPT側がプロンプトの提案をしてくれる日も来るでしょうね。

あなたがやりたいことは、〇〇ですか?と、逆にユーザーに聞きかえしてくれる。今の検索エンジンと同じで、いずれ、多くの場合は、プロンプトなど意識せずに使えるようになるはずです。

技術の進歩は、それをあまり意識せずに使えるようになるのが理想ですから。そうなっていくはずでしょうね。

八楽:山田先生の研究は、今後どんなテーマになっていきますか。ChatGPTは研究に対して影響するんでしょうか。

山田優教授:大きく分けて2つのテーマになると思います。

まず、人間はどうして翻訳できるのかや、人間の頭の中ってどうなっているのかを研究するのに、ChatGPTを使って、その中ってどうなってるのかとか、Transfomerの中はどうなっているのかを、人間の認知プロセスと比較するような研究をしていきたいです。基礎研究の部分ですね。

2つ目は、応用研究です。ChatGPTを使って何ができるのかと言う研究をしたいです。しばらくの間は、MT(Machine Translation)+PE(Prompt Engineering)なのだと思っています。

PEのところは、機械翻訳と併用して、MTが誤訳していたところを、プロンプトで誤訳が避けられるのか、というのを試します。研究というよりプロンプト開発のようになってしまいますが、翻訳実務をどう変えるのか、英語学習者の場合は学習効果が上がるのかなど、やりたいことは山ほどあります。とてもエキサイティングです。